園長のひとりごと

こども園、福祉全般、寺院関係、走ること、食べること、いろいろと。

【過疎×保育】

過疎と保育について意見交換する機会があったので、過疎地だからこそ大切にしていることを改めて整理してみました。

 

①子ども同士の関わりを大切にする

子どもが多い時代は、家庭や地域で子ども同士の関わりがありました。家庭では兄弟間でのお世話、地域ではいろんな年齢の子が混ざり合って同じ遊びに取り組むなど、子ども同士で工夫して問題解決をしたりコミュニケーションをとったりする機会が多くありました。

ですが、今は少子化になってその機会が自然に生まれることはなくなり、さらに過疎地においてはその傾向が顕著になってきています。

近年はコミュニケーション能力、問題解決能力、他者と関係を築いていく社会的スキル、感情のコントロールといった、いわゆる非認知能力の育ちが重要だといわれています。これらは大人から教え込まれて身につくものではなく、子ども同士が関わる体験の中で失敗を繰り返しながら学んでいくものです。

子ども同士の関わりの中にはトラブルがつきものです。そのトラブルを体験し、乗り越えていく過程に学びがあるわけですが、そこに大人が関わるとつい先回りしてやってあげてしまい、子どもは学ぶ機会を失ってしまいます。

大人の役割は、子どもだけでは解決できないときにはすぐに助けてあげられるようスタンバイしていること、「ちゃんと見ているよ」と子どもたちに伝え続けることです。そのことで安心してトラブルにも向き合っていけます。

そんな体験ができるのが保育園や認定こども園で、少子化の今はその役割は非常に大きくなってきています。

 

②子ども同士の関わりは乳幼児期から

保育・幼児教育の効果に関する海外の調査によると、幼少期における脳の感受性は2歳前後が敏感期となっています。表にもある社会的スキルや感情のコントロールといった非認知能力も2歳前後が敏感期となっており、乳児期から子ども集団の中で生活することの重要性がよくわかります。

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昔は保育園にいる0歳児や1歳児を見て「小さいうちから保育園に預けられてかわいそう」と言う人もいました。親との関わりが最も大切で、保育園はその代わりをするところと考えられていた時代の名残です。

今は、もちろん親との関わりは大切ですが、保育園には家庭や地域になくなってしまった子ども集団の体験を保障する役割があります。しかも子どもが小さなうちから子ども同士で関わることに意味があるのが分かってきているので尚更です。

子どもが少なくなっている今は特に、子ども集団があることの意味は大きくなっています。

 

③トラブルは自分たちで解決する

子ども同士でトラブルを解決する場として、あさりこども園では「なかよしテーブル」を設置しています。子どもたちがケンカをしたとき、話し合いができる状態までクールダウンした後「なかよしテーブル」を使います。

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ここでのルールは「自分の気持ちを言う」「相手の話を聞く」「最後には仲直りをする」の3つです。大人は介入せず、話し合いが難しいときは年長児が手伝いに入ってくれながら、子ども同士で納得がいくまで話をしてもらいます。

大人が強引に「ごめんね」と互いに言わせて終わるのではなく、自分たちでしっかり話した後は「ごめんね」の言葉はなくてもお互い笑顔で遊びを再開します。こうやって子ども同士で解決する体験こそが大切なことです。

 

④異年齢で関わることのメリットは多い

自分たちで解決できない場合は大きい子が来てくれて、仲直りをするための手伝いをしてくれます。トラブル解決だけでなく様々な場面で大きい子と小さい子が関わっていて、この異年齢で多様な関わりができるのも保育園の特徴です。異年齢での関わりにも大切なことがたくさんあります。

異年齢で関わることのメリットとして言われているのは下記のことです。

◆年少児は年長児から刺激を受ける
◆年長児は年少児に教えてあげることで、自分の能力を定着させる
◆小さい子のお手本となることで、自信をつけることができる

異年齢の関わりでは、年長児の思いやりが育つとよく言われます。それはもちろんありますが、小さい子が受ける刺激、教えることで能力を定着させることなども重要な点です。

 

⑤他者と折り合いをつける力

①子ども同士の関わりを大切にする〉の中で、「コミュニケーション能力、問題解決能力、他者と関係を築いていく社会的スキル、感情のコントロールといった、いわゆる非認知能力の育ちが重要」と書きました。一般的に非認知能力と言われているものは他にもあり、非常に幅が広く、定義するのが難しい言葉ですが、ここでは「他者と折り合いをつける力」とします。

コミュニケーションや問題解決も、他者と共に生活していく、折り合いをつけていくために必要な力です。他者と折り合いをつけるといっても、全ての人と仲良くという意味ではありません。互いに迷惑をかけながら、でもできることで助け合い、なんとか共に社会を形成していく、くらいの意味です。別な言い方をすると、他者と大きな問題を起こさずにそこそこやっていく、くらいでしょうか。

社会にはいろんな人がいます。考え方も多様な中で、みんなが同じ考えになるのは不可能です。考え方の違いは違いとして認め、適度な距離感でつきあっていくことがとても大切です。

別の問題として、人口減少が進んでいる地域では住民同士で支え合う必要が、その支え合うつき合いを煩わしく感じてその地域を離れていく人も少なくないと聞きます。支え合い必要がある、でも干渉しすぎない距離感は保ちたい、その両立はたしかに難しいことです。

今後は、地域の規模に応じた人と人の距離感を身につけることが非常に大切になってくると思われます。だからこそコミュニケーション能力、問題解決能力、他者と関係を築いていく社会的スキル、感情のコントロール、つまり「他者と折り合いをつける力」が必要だということになります。

この力をつける最初のステージが、子ども集団のある保育園、認定こども園です。

 

⑥未来を創り出す力、豊かな創造力

視野を少し広げてみます。これからはますます前例のない課題を抱えた社会になっていくことが予想されます。以前は、こうすれば社会は成長するといった道筋が比較的明確で、その中では決まったことを速く、正確に、大量にこなす力が求められていました。決められたことを言われたとおりにこなしていけば、社会は成長し、個人としても豊かになる時代がありました。

ですが、今は違います。こうすれば間違いはないといった唯一の正解はありません。正解のない課題に対し、よりベターな方法を見つけ出していくことが求められます。しかもよりベターな方法は人によっても違います。そんな不確実で、前例のない課題を抱えた社会で生きていくことになる子どもたちは、自分で未来を創り出す力を身につけていくことが重要になります。

江津市のスローガンは『GO▶GOTSU 山陰の「創造力特区」へ。』です。

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「新たなことに挑戦する気質」や「生きる力」を養うことができる環境を整え、さらに「挑戦する人を応援する風土」を培うことを目指しており、江津市で育つ子どもたちにも創造力を高めていくことを同じように求めるスローガンだと考えました。

子どもたちの創造力を養うための活動といえば、子どもたち自身で考えて行動することの積み重ねです。誰と何をしたいか、何をどれだけ食べたいか、体を休めることが必要かどうか、そんなことを考えながら自分で決めて行動することを通して、自発的な行動を身につけていきます。

既存の考えにとらわれることなく、自分の考えで行動することをこども園の生活で体験するために、誰と何をして遊ぶかを自分で決めるところから始まります。何をどれだけ食べるかも自分で決める、セミバイキング方式の食事になっています。昼寝をするかどうかも、自身の体調と相談して決めることになっています。

このように、自分で決めて行動する厳しさを日常で体験することを通して、創造的に活動する基礎力を身につけていきます。

 

⑦地域に対する所属感

子どもたちには自分の力を発揮できる場所で活躍してもらいたいという思いがあるのと同時に、できれば地元に戻ってきてもらいたい、それができなくても地元に関心を持ち続けてもらいたいという思いがあります。

そのためには、まずはこの地域で楽しく遊ぶ体験が必要です。楽しく遊んだ体験は、自分はこの地域に所属しているという所属感を持つことにつながり、所属感が安心感となり自発的な活動を促すことにもなります。

こども園では地域全体を活動スペースと考え、一日中地域の中で過ごす「もくもくの日」を設定しています。

行き先は子どもたちが決めます。雨の日でも出かけます。目的へ向かう途中で興味のあるものを発見したら、そこでたっぷり時間を使って道草するのも自由です。そんな体験ができるのがもくもくの日です。

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地域の山の中だけでなく、川や海、路地裏、仕事場など、地域の資源を使わせてもらって満足いくまで遊びます。この満足感が地元に対する所属感を確かなものにしてくれると考えています。

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